日本に咲く香り植物5

金木犀の開花、第二波について

 

調香師 上田  知典(2021.10.4.)

 

 二週間ほど前の9月中旬頃に金木犀の香りが街いっぱいに広がっていて秋が来たのだなと思っていたのは記憶に新しい。しかし、昨日からまた香りが漂うようになり、こんなことって今までにあったかなとあれこれと調べてみた。

 

 

金木犀の開花時期

 

 ウェザーニュース社のサイトには以下のことが書かれていた。

「金木犀の開花時期は9月中旬~10月下旬といわれますが、気温の影響を受け、気温が高いほど開花時期は遅くなると言われています。また、9月に一旦花が咲き終えた後、10月に新しい花が開花して下旬まで楽しむことができる2度咲きする樹もあります。」(*1)

 

 なるほど、このところ天気も良く暖かい日が続くので再度咲き出す木もあったのだろう。半世紀以上生きてきたのだが、こんなことは記憶にない、記憶力が悪いのか、地球温暖化のせいなのかと思ってしまう。

 

   


 

金木犀の香気

 

 金木犀について日本香料協会編の「香りの百科」(*2)から抜粋すると…。

「回旋花目モクセイ科モクセイ属キンモクセイの花、中国原産で常緑の小高木である。9月から10月にかけて開花し、香気の強い花の種類が少ない日本において、春の沈丁花と並び季節感をそそる代表的な植物である。」「香気成分は、主成分としてcis-3-Hexenol, Linalool, Linalool oxide, α-Ionone, β-Ionone, γ-Decalactoneが確認されている。また様々な副成分の確認もあり報告されている。」とある。

 

 成分として様々な物質が見出されているが、調香師の見地から金木犀の花の香りはラクトン類が非常に大きな役割を果たしていると思われる。重量%としては数パーセントにしかならないが、全体の香りにおける印象としては数十パーセントになる。ラクトン類は極少量でもよく香り、残香性も高いからこそ街中いっぱいに漂うようなパフォーマンスを発揮するのではないだろうか。そんなこの花の香りの特性からか、トイレ芳香剤香料としてある香料会社が開発し大ヒット商品となったのは40年以上前である。

 

気品ある香り再現の難しさ

 

 Osmanthus Absolute(中国産)という天然香料が存在し、いくつかの香料会社からのものを嗅いでみるが、どれも街中に漂うあの香りが再現されるような気品ある香りではなく残念な思いをする。想像するに工業的に花の香りを再現することが困難なことなのであろう。忠実に再現した天然香料があれば高い価格であっても購入したい。スキンケア用の香り創りの最終段階でこの忠実に再現した天然の香りをほんの少し添加するだけで華やかさがグンと出てくるだろう。

 

 *1:https://weathernews.jp/s/topics/202110/030085/

*2:日本香料協会編「香りの百科」